「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意を詳細解説

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意

「先週片付けさせたばかりなのに、もう道具が散乱している」
「『きれいにしろ』と何度言っても、個人の感覚任せで統一感がない」
「監査の前だけ大慌てで掃除をして、翌日には元通り」

食品工場の現場管理職やリーダーの皆様、このような悩みを抱えていませんか?

衛生管理が生命線である食品工場において、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は基本中の基本です。しかし、多くの現場では「5S=掃除=面倒な雑用」と捉えられ、定着せずに形骸化しています。

結論から申し上げます。「片付けろ」「意識を高く持て」と精神論を説いても、5Sは絶対に定着しません。5Sが定着しないのは、従業員のやる気がないからではなく、「自然と5Sができる仕組み」がないからです。

本記事では、精神論を排し、食品工場特有の事情(異物混入防止、HACCP、交差汚染防止)を踏まえた上で、5Sが「空気のように当たり前」になるための仕組み作りの極意を解説します。

第1章:なぜ食品工場で5Sが失敗するのか?3つの根本原因

まず、なぜ多くの現場で5S活動が頓挫するのか、その根本原因を解明しましょう。

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意

1. 「きれい」の定義が曖昧だから

上司が言う「きれい」と、現場担当者が思う「きれい」にはズレがあります。
「床をきれいにしろ」という指示に対し、ある人は「ゴミを拾うこと」と思い、ある人は「洗剤で磨き上げること」と思います。数値やビジュアルによる基準(ゴール)がない限り、このギャップは埋まりません。

2. 5Sを「業務外の雑用」と捉えているから

忙しい製造現場では、「生産」が最優先されがちです。「生産が忙しいから5Sができない」という言い訳がまかり通る現場は危険です。
5Sは「仕事の一部」ではなく「仕事そのもの」です。探すムダ、迷うムダ、汚染のリスクを減らすことは、生産効率と直結しています。この認識の転換ができていないことが失敗の要因です。

3. 「戻しにくい」環境のまま放置しているから

「使ったものを元に戻さない」のは、人の怠慢のせいだけではありません。「戻す場所が遠い」「戻す場所が満杯」「戻す場所が不明確」であることが多いのです。人間は易きに流れる生き物です。戻すのが面倒な仕組みのままでは、どれだけ教育しても定着しません。

第2章:食品工場の5Sは「衛生」と「安全」の土台

一般の製造業と食品工場の5Sには決定的な違いがあります。それは「製品の安全性(Food Safety)」に直結しているという点です。

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意
食品工場における5S
  • 整理(Seiri): 不要なものを捨てることで、異物混入のリスクとなる「隠れ場所」をなくす。
  • 整頓(Seiton): 道具の定位置化により、紛失(製品への混入)を即座に検知する。
  • 清掃(Seiso): 洗浄・殺菌により、微生物汚染やアレルゲン交差汚染を防ぐ。
  • 清潔(Seiketsu): 上記3Sを維持し、衛生的な環境を標準化する。
  • 躾(Shitsuke): ルールを守る習慣をつけ、フードディフェンス(意図的な異物混入防止)につなげる。

食品工場における5Sは、単なる美化活動ではなく、HACCP(危害要因分析重要管理点)の前提条件プログラム(PRP)そのものです。この目的意識を共有することから全てが始まります。

第3章:精神論不要!「自然と定着する」仕組み作りのステップ

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意

では、具体的にどのように仕組み化していくのか。各ステップごとに解説します。

【ステップ1:整理】「捨てる基準」をルール化する

「整理」とは、要るものと要らないものを分け、要らないものを捨てることです。しかし、現場は「いつか使うかも」と言って捨てたがりません。ここで必要なのは「赤札作戦(あかふださくせん)」です。

  1. 赤札ルールの策定:
    • 過去1ヶ月使用していないもの=現場から撤去(倉庫へ移動)。
    • 過去1年使用していないもの=廃棄。
    • このように、期間で明確に区切ります。
  2. 第三者による貼り付け:
    • 現場の担当者は愛着があり捨てられません。他部署の人間や管理者が、基準に該当するものに容赦なく「赤札」を貼ります。
  3. 期限付きの処置:
    • 赤札が貼られたものは、1週間以内に処置(廃棄、移動、返却)を決めます。

食品工場では、使わない機材や部品は、埃の温床になり、虫の住処になります。「もったいない」が最大のリスクであることを教育しましょう。

【ステップ2:整頓】「探させない」ための3定管理と姿置き

「整頓」のゴールは、「誰でも、すぐに取り出せて、すぐに戻せる」状態です。ここで徹底すべきは「3定(さんてい)管理」です。

  1. 定位置(どこに): 置き場所をテープやペンキで区画(区画線)します。
  2. 定品(何を): 置くものの名前を表示します。
  3. 定量(いくつ): 在庫の最大量と最小量を決めます

食品工場向けの極意:姿置き(シャドーボード)
清掃道具や工具は、壁掛けにしてその形をくり抜いたシート(姿絵)を貼ります。

  • メリット1: パッと見て、何がないか(使用中か紛失か)が一瞬でわかる。
  • メリット2: 形が合わない場所には戻せないため、必ず正しい位置に戻る。
  • 異物混入対策: 道具に番号を振り、管理台帳と一致させることで、作業終了時の数量確認(紛失確認)が数秒で終わります。

【ステップ3:清掃】清掃は「点検」なり

清掃をアルバイト任せの「掃除」にしてはいけません。清掃は、機械や設備の異常を発見する「点検」のプロセスです。

  • 清掃点検表の作成:
    「きれいに掃除する」ではなく「コンベア下部の受け皿を外し、残渣を除去し、アルコール殺菌する」といった具体的な行動をマニュアル化します。
  • 写真付き基準書(OPL:ワンポイントレッスン):
    「OKな状態」と「NGな状態」を並べた写真を現場に掲示します。言葉よりも視覚情報の方が、外国人労働者や新人にも伝わります。

【ステップ4:清潔】「見える化」で異常を浮き彫りにする

清潔とは、3S(整理・整頓・清掃)が維持されている状態です。これを保つための仕組みが「見える化」です。

  • 透明化:
    ロッカーやキャビネットの扉を透明にし、中身が見えるようにします。隠れた場所には必ず無駄なものが溜まります。
  • 色彩管理(カラーコントロール):
    ゾーニングに合わせて道具の色を変えます。
    • 汚染作業区域(下処理など)=赤色のエプロン・道具
    • 清潔作業区域(包装など)=青色のエプロン・道具
    • これにより、汚染区の道具が清潔区に持ち込まれた際、誰でもひと目で「おかしい(異常)」と気づけます。注意しなくても、色が教えてくれる仕組みです。

【ステップ5:躾】習慣化させる「仕掛け」

最も難しいのが「躾(習慣化)」です。これを定着させるには、心理的なアプローチが必要です。

  • ハードルを下げる:
    • チェックシートは「○×」だけで終わるように簡素化する。
    • 清掃道具は、使う場所のすぐ近く(歩数ゼロ)に配置する。
  • 相互監視ではなく「相互確認」:
    • 朝礼での唱和や、作業交代時の指差呼称をルーチン化します。
  • 評価制度との連動:
    • 5Sの状態を点数化し、良いラインや個人を表彰します。「怒られるからやる」ではなく「褒められるからやる」文化を作ります。

第4章:現場リーダーが持つべきマインドセット

仕組みを作っても、運用するのは「人」です。リーダーの振る舞いが5Sの成否を分けます。

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意

1. リーダーこそが「一番最初に」やる

リーダーが床に落ちているゴミをまたいで通ったら、その瞬間、部下の5Sへの意識はゼロになります。「率先垂範」は古い言葉ですが、真理です。リーダーが拾えば、部下も拾わざるを得なくなります。

2. 「なぜそれが必要か」を語り続ける

「片付けろ」ではなく、「ここに物が置いてあると、つまずいて転倒するリスクがあるから、ここに置こう」と、理由(安全、品質、効率)をセットで伝えることが重要です。納得感のないルールは守られません。

3. 減点主義より加点主義

汚れているところを指摘して回る「5Sパトロール」は、現場から嫌われます。
「あそこが汚い」と指摘する前に、「この棚の整頓は素晴らしいね」と良い点を見つけて褒めてください。承認欲求を満たすことが、自発的な改善への近道です。

第5章:デジタルツールの活用で5Sを加速させる

近年では、食品工場の5SにもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が来ています。

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意
  • タブレットによる点検:
    紙のチェックシートは管理が大変です。タブレットで写真を撮ってアップロードする形式にすれば、管理者はリアルタイムで現場の状況を把握でき、ペーパーレス化にも貢献します。
  • カメラによるAI監視:
    手洗いの手順や、指定エリアへの立ち入りをAIカメラが解析し、ルール違反があればアラートを出すシステムも導入されています。人間が監視するストレスから解放され、客観的なデータに基づいた指導が可能になります。

まとめ:5Sは一日にして成らず。まずは「一箇所」から

5S活動に終わりはありません。そして、いきなり工場全体を完璧にしようとすると必ず挫折します。

「片付けろ」と言っても無駄?5Sが食品工場に自然と定着する仕組み作りの極意

定着のコツは、「モデルエリア」を作ることです。
特定のライン、あるいは特定の棚ひとつでも構いません。そこだけ徹底的に5Sを行い、圧倒的に使いやすく、きれいな状態を作ります。すると、他のエリアの担当者が「自分たちの場所もあのようにしたい」と思うようになります。

「仕組み」が人を変え、「環境」が意識を変えます。

「片付けろ」と叫ぶのをやめ、まずはテープを一本、床に貼ることから始めてみませんか?その一本の線が、食品工場の未来を変える第一歩になります。

本記事では、食品工場における5S定着の仕組み作りについて解説しました。
重要なのは、精神論ではなく、人間工学や心理に基づいた「やりやすい環境」を用意することです。

貴社の工場が、5Sを通じて「安全・安心・高効率」な筋肉質の工場へと生まれ変わることを応援しています。