食品加工事業を立ち上げる際、あるいは既存の施設を改装する際、最も悩ましいのが「設備選び」です。
「どんな機械が必要か?」は作る食品によって異なりますが、「食品衛生法に基づき、営業許可を取るために絶対に必要な設備」は、あらゆる食品加工現場で共通しています。
この記事では、食品加工現場で共通して最低限必要な設備を、保健所の許可基準とHACCP(ハサップ)対応の観点から網羅的に解説します。無駄なコストを抑え、最短で事業をスタートさせるためのチェックリストとしてご活用ください。
1. 【最重要】保健所の許可に必須!「衛生管理」のための共通設備

食品加工場として認められるためには、まず所轄の保健所が定める「施設基準」をクリアしなければなりません。これらは作る食品に関わらず、ほぼ全ての現場で必須となる設備です。
1-1. 手洗い設備(2種類必須)
意外と見落としがちなのが、「手洗い」と「器具洗浄」のシンクは別々に必要だという点です。

- 従業員用手洗いシンク:
トイレの後や作業場に入る前に手を洗う場所。水栓は「非接触型(自動センサー、足踏み式、レバー式)」であることがHACCP対応として求められます。消毒液の設置も必須です。 - 器具洗浄用シンク:
食材や調理器具を洗うためのシンク。最低でも2槽以上あることが望ましい地域が多いです。
1-2. ゾーニング(区画)設備
「汚染作業区域(下処理など)」と「清潔作業区域(加工、包装など)」を明確に分ける必要があります。
- 間仕切り・パーテーション:
壁で完全に仕切るのが理想ですが、アコーディオンカーテンや背の高い什器での区分けが認められる場合もあります。 - 床材:
耐水性があり、清掃しやすい素材(コンクリートや塗り床など)であること。ウェット運用(水を流す)かドライ運用かによって選定が変わりますが、排水溝の設置は必須です。
1-3. 換気・照明設備

これも食品工場では欠かすことのできない設備です。
- 換気設備:
蒸気、熱、臭気を排出するフードや換気扇。虫の侵入を防ぐための防虫網(メッシュ)やシャッターが必須です。 - 照明:
作業に十分な明るさ(照度)が必要です。万が一割れても破片が食品に混入しないよう、飛散防止カバー付きの蛍光灯やLEDが推奨されます。
2. 品質の要!「保存・保管」のための共通設備

食材の鮮度管理と、完成品の保管に必要な設備です。これらも業種を問わず共通して必要になります。
2-1. 業務用冷蔵庫・冷凍庫
家庭用ではなく、温度管理が正確で耐久性のある業務用が必須です。
- 温度計付き:
外部から庫内温度が確認できるものが標準です(HACCPの記録管理のため)。 - サイズ選定:
仕入れ量と出荷量を見越し、少し余裕のあるサイズを選びましょう。
2-2. 保管棚・パレット
食材や資材を床に直置きすることは衛生上NGです。
- スチールラック・棚:
清掃しやすく、サビにくいステンレス製や樹脂製が推奨されます。床から15cm以上離して保管できるものが理想です。
3. 加工の効率化・品質保持に欠かせない「基本加工・包装設備」

ここからは、現代の食品加工ビジネスにおいて、競争力を保つために「実質的に最低限必要」と言える共通機器です。
3-1. 真空包装機
食品の酸化を防ぎ、保存期間を延ばすために必須級の設備です。
- 役割:
液体急速凍結などを行う前の「前処理」としても重要です。 - 選び方:
液体物をパックするかどうかで機種(チャンバー式など)が変わります。
3-2. 急速凍結機(ブラストチラー・リキッドフリーザー)
「作ったものを美味しく保存して出荷する」ためには、家庭用の冷凍庫では不十分です。
- 役割:
菌の繁殖しやすい温度帯を素早く通過させ、食中毒リスクを低減しつつ、品質(味・食感)を維持します。 - トレンド:
特にドリップを出したくない高品質な食材には、液体急速凍結機の導入が進んでいます。
3-3. 金属探知機・X線検査機(または厳格な検品体制)
異物混入は食品メーカーにとって致命傷になります。
- 役割:
出荷前の最終チェック。小規模な工房でも、最低限ハンドヘルド型の金属探知機を用意するか、徹底した目視検品のマニュアル化が必要です。
4. 設備導入時の失敗を防ぐ3つのポイント

リストアップした設備を揃える際、以下の点に注意しないと「保健所の許可が下りない」「使い勝手が悪い」といった事態になりかねません。
ポイント1:まずは管轄の保健所に図面相談に行く
設備を購入・工事する前に、必ず図面を持って保健所に事前相談に行きましょう。「シンクのサイズが足りない」「手洗い器の位置が悪い」といった指摘を工事前に受けることで、手戻りを防げます。
ポイント2:HACCP(ハサップ)基準を意識する
現在は全事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務付けられています。「掃除しやすい構造か?」「温度管理は記録できるか?」という視点で機器を選ぶことが重要です。
ポイント3:動線をシミュレーションする
「食材搬入 → 下処理 → 加熱加工 → 冷却・包装 → 保管 → 出荷」という一方通行の動線を作ることが、交差汚染を防ぐ基本です。設備配置はこの動線に沿って行います。
5. まとめ:最低限の設備投資で最大の安心と品質を
食品加工現場で最低限必要な設備は、単に「作るための機械」だけではありません。「安全を守るための設備(衛生設備)」こそが、事業継続の土台となります。
- 手洗い・排水・換気などの「衛生インフラ」を最優先
- 温度管理ができる冷蔵・冷凍設備
- 鮮度を封じ込める包装・凍結技術
特に近年は、食品ロスの削減や広域販売のために「冷凍技術」の重要性が高まっています。衛生設備を整えた上で、自社の商品の強みを生かすための急速凍結機などの導入を検討することが、成功への近道です。









