「保健所や自治体の水道局から、排水の水質について問い合わせが来た」「工場の新設・増設にあたって排水処理設備をどう選べばいいのか分からない」。食品工場の現場責任者や経営者から、こうした相談を受けることが増えています。
食品工場は原料の洗浄水や加工水に由来する有機物・油脂分を多く含む排水を出すため、他業種と比べても排水規制の目が厳しい業種のひとつです。ところがHACCPや食品表示法と違い、排水処理については「水質汚濁防止法」「下水道法」という2つの法律と、自治体ごとの条例が絡み合っており、体系立てて解説された情報が少ないのが実情です。
本記事では、食品工場が排水処理について押さえておくべき法規制の全体像、代表的な排水基準値、処理方式の違い、そして基準違反を防ぐための日常管理体制まで、実務目線で解説します。
食品工場の排水を規制する2つの法律|水質汚濁防止法と下水道法
排水規制は、処理した水をどこへ流すかによって適用される法律が変わります。まずはこの前提を整理しておきましょう。
河川等へ直接放流する場合は「水質汚濁防止法」の特定施設
処理した排水を河川や海などの公共用水域へ直接放流する工場は、水質汚濁防止法の規制を受けます。同法では、汚水を排出するおそれのある施設を「特定施設」として政令で指定しており、原材料の洗浄・混合・加工に一定規模以上の用水を使用する食品製造業の多くが該当します。特定施設を設置する際は都道府県知事等への届出が必要で、届出をせずに稼働させると罰則の対象になります。
公共下水道へ放流する場合は「下水道法」の除害施設
一方、処理した排水を公共下水道へ流す工場は下水道法の対象となり、自治体の条例で定める「排除基準」を満たす必要があります。排除基準を満たせない排水を下水道へ流し続けると、下水処理場の処理機能を損なうおそれがあるため、油脂分や固形物を多く含む食品工場には、グリストラップ(油水分離槽)や中和槽といった「除害施設」の設置が義務付けられているケースがほとんどです。

| 区分 | 直接放流(河川等) | 下水道放流 |
|---|---|---|
| 適用法律 | 水質汚濁防止法 | 下水道法+自治体条例 |
| 求められる届出 | 特定施設設置届出(都道府県等) | 除害施設設置届出(下水道管理者) |
| 必要な処理レベル | 放流先の水質基準を満たすまで自社で処理 | 排除基準まで前処理すれば残りは下水処理場が処理 |
食品工場の排水に求められる主な基準値
排水基準は「全国一律の基準」と「自治体が個別に定める基準」の二重構造になっています。両方を理解しておくことが重要です。
全国一律の排水基準(BOD・SS・油分など)
水質汚濁防止法には、業種を問わず全国一律で適用される「生活環境項目」の排水基準が定められています。食品工場の排水で特に問題になりやすいのは、有機物の量を示すBOD(生物化学的酸素要求量)、浮遊物質の量を示すSS(浮遊物質量)、そして油脂分の指標となるノルマルヘキサン抽出物質です。代表的な基準値の目安は以下の通りですが、実際の適用値は放流先や施設規模によって変わるため、必ず所轄の自治体窓口で確認してください。
下水道排除基準・自治体の上乗せ基準に要注意
公共下水道へ排水する場合の「排除基準」は、水質汚濁防止法の一律基準とは別に、下水道を管理する市区町村の条例で個別に定められています。地域によって数値が異なるうえ、一律基準より緩やかな項目もあれば、逆に厳しい「上乗せ基準」が設定されている項目もあります。工場の立地が変わる場合や新設時には、必ず現地の下水道担当部局に確認することが不可欠です。
| 項目 | 意味 | 食品工場での主な発生源 |
|---|---|---|
| BOD | 微生物が有機物を分解する際に消費する酸素量。数値が高いほど有機物が多い | 原料洗浄水、調理排水、糖分・でんぷん質を含む排水 |
| SS(浮遊物質量) | 水中に浮遊する固形物の量 | 野菜くず、パン粉、衣材などの微細片 |
| n-ヘキサン抽出物質 | 油分・脂肪分の量を示す指標 | 揚げ物油、食肉・乳製品由来の油脂 |
| pH | 酸性・アルカリ性の度合い | 洗浄用の酸性・アルカリ性洗剤、殺菌剤 |
食品工場で採用される代表的な排水処理方式
排水処理は大きく「前処理」と「本処理」の2段階に分かれます。工場の排水特性や敷地条件に応じて、組み合わせを検討することになります。
前処理|グリストラップと除害施設
油脂を多く扱う工場では、排水を処理施設や下水道へ流す前に、グリストラップ(油水分離槽)で油分や大きな固形物を分離するのが基本です。あわせてpHが大きく変動する排水には中和槽を、洗浄工程の排水にはCIP洗浄(定置洗浄)との連携を考慮した前処理槽を設置するケースもあります。前処理を怠ると後段の生物処理に負荷がかかり、処理能力の低下や悪臭の原因になります。
本処理|活性汚泥法・凝集沈殿法
BODを大きく下げる必要がある場合は、微生物の働きで有機物を分解する「活性汚泥法」が広く使われます。一方、油脂分や浮遊物質を薬剤で凝集させて沈殿・除去する「凝集沈殿法」は、比較的省スペースで導入しやすく、活性汚泥法の前段処理として組み合わされることも少なくありません。どちらの方式が適するかは、排水量・排水濃度・設置スペース・ランニングコストのバランスで判断します。設備選定に迷う場合は、設備選定・生産ライン設計 完全ガイドも参考にしてください。
高度処理が必要になるケース|膜処理・オゾン処理
放流先が閉鎖性水域(湖沼や内湾など)で特に厳しい基準が課される場合や、処理水を工程内で再利用したい場合には、活性汚泥法・凝集沈殿法だけでは水質が不十分なことがあります。その場合はMF膜・UF膜による膜分離処理や、殺菌・脱色を目的としたオゾン処理を組み合わせる「高度処理」が選択肢になります。導入コストは高くなりますが、水資源の有効活用という観点でも注目される方式です。

基準違反・行政指導を防ぐ日常管理体制
排水処理設備は導入して終わりではありません。継続的な自主管理があってはじめて基準を守り続けられます。
自主測定・記録の重要性
特定施設や除害施設の設置者には、定期的な自主測定と記録の保存が求められます。測定頻度や保存年数は自治体条例で定められていることが多く、記録がないこと自体が指導の対象になる場合もあります。日々の目視確認(色・臭い・泡立ち)と定期的な水質測定を組み合わせ、異常の兆候を早期に把握できる体制を整えておきましょう。
水質検査は自社で行うか、外部委託するか
簡易項目(pH、透視度など)は自社で日常的にチェックしつつ、BODなど専門的な分析が必要な項目は外部の計量証明機関に依頼するという役割分担が一般的です。この「自社対応と外部委託の使い分け」という考え方は、食品工場の一般生菌検査は自社?外部委託?で解説している判断基準とも共通しており、あわせて検討すると体制づくりの参考になります。
基準超過時の行政指導・罰則リスク
排水基準を超過した状態が発覚すると、まずは自治体からの改善指導・改善命令が入り、それでも改善されない場合は罰則(懲役または罰金)の対象となることがあります。行政処分に至らなくても、下水道管理者から使用停止を求められれば工場の操業自体が止まりかねません。取引先の監査で排水管理の不備が指摘され、信用低下につながるケースもあるため、日頃からの管理体制づくりが経営リスクの回避に直結します。

まとめ:排水処理は「法規制の理解」と「日常管理」の両輪で守る
食品工場の排水処理は、放流先によって水質汚濁防止法・下水道法のどちらが適用されるかが変わり、それぞれ異なる基準・届出が求められます。全国一律の基準に加えて自治体ごとの上乗せ基準もあるため、正確な情報は必ず所轄窓口で確認することが欠かせません。
グリストラップや中和槽による前処理、活性汚泥法・凝集沈殿法による本処理を適切に組み合わせ、自主測定と記録を継続することで、基準違反や行政指導のリスクを大きく減らせます。排水処理設備の新設・更新については、次の記事「食品工場の排水処理コストを削減する方法」もあわせてご覧ください。設備選定や導入コストのご相談は、ぜひ弊社にお問い合わせください。
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