食品工場のメンテナンス・修理・工事で起きるコンタミを防ぐ|工具管理・潤滑剤・作業後確認のルール

分解された食品工場の設備のそばに整然と並べられた工具と部品を俯瞰した、保全作業のコンタミ対策のタイトル画像

「日常の異物混入対策はルールどおりにできているのに、設備の修理やメンテナンスのあとに限って、ネジや金属片、油が見つかる」。食品工場の品質保証や設備担当者から、こうした声がよく聞かれます。作業者の服装や手洗いといった日常のルールは整っていても、保全・修理・工事は、そのルールの外側に置かれやすいためです。

保全や修理は、製造とは違う、非定常の作業です。設備を分解して内部が露出し、工具や部品、潤滑油などが持ち込まれ、外部の業者が入ることもあります。生産中の突発故障では、時間に追われて手順が省略されがちです。実際に、食品衛生法施行規則の別表第十七(一般的な衛生管理の基準)でも、機械器具や部品の金属片・異物・化学物質の混入防止、故障や破損の速やかな補修などが求められています。

本記事では、コンタミネーションの全般的な解説ではなく、「設備のメンテナンス・修理・工事」が原因で起きるコンタミに絞って、種類と典型例、作業前から作業後までの管理の流れ、潤滑油の使い分け、外部業者の受け入れルールを整理します。アレルゲンのコンタミや異物混入全般は、既存のアレルゲンのコンタミ対策の記事と異物混入防止対策の記事で解説しています。あわせてご覧ください。


保全・修理・工事が、コンタミの発生源になりやすい理由

まず、日常の製造作業と何が違うのかを確認します。違いを理解すると、どこにルールの穴ができやすいかが見えてきます。

日常の製造作業との違い

保全・修理・工事は、日常の製造とは作業の条件が大きく異なります。次の表のように、人・作業・持ち込み物・設備の状態・管理の仕方のいずれも、リスクが高くなる要素を抱えています。

項目日常の製造作業保全・修理・工事
作業者教育を受けた固定のメンバー設備担当者、外部業者、応援の人員など、入れ替わりがある
作業の内容手順書があり、繰り返し行う非定常で、突発故障では緊急対応になる
持ち込み物原材料や包材が中心工具、部品、潤滑油、溶剤、養生材、資材など多種類
設備の状態閉じた状態で運転分解して内部や食品の接触面が露出する
管理の仕方標準化され、記録が残る担当者の経験に頼り、記録が残りにくい

とくに、製造中の突発故障への対応は、最も混入のリスクが高い場面です。時間に追われると、養生や工具の確認、清掃といった手順が後回しにされがちです。突発故障そのものを減らす考え方は、予防保全・予知保全の記事をご覧ください。

法令で求められていること

食品衛生法施行規則の別表第十七(一般的な衛生管理に関する基準)には、設備に関する次のような内容が定められています。保全作業のルールづくりでは、これらを根拠として押さえておくと、社内の説明がしやすくなります。内容はe-Gov法令検索の食品衛生法施行規則で確認できます。

  • 機械器具とその部品は、金属片、異物、化学物質などが食品に混入しないよう、洗浄・消毒し、所定の場所に衛生的に保管すること
  • 故障や破損があるときは、速やかに補修し、適切に使用できるよう整備しておくこと
  • 温度計、圧力計、流量計などの計器類や、殺菌・除菌・浄水の装置は、機能を定期的に点検し、結果を記録すること
  • 洗浄剤、消毒剤などの化学物質は、取り扱いに注意し、必要に応じて容器に内容物の名称を表示するなどして、食品への混入を防ぐこと
  • 食品を製造する場所に、不必要な物品を置かないこと

保全作業で起きるコンタミの種類と典型例

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保全作業が原因のコンタミは、物理的なもの、化学的なもの、微生物やアレルゲンに関わるものに分けて考えると整理しやすくなります。種類ごとの典型例と、主な原因は次のとおりです。

種類典型例主な原因
物理的なコンタミネジ、ボルト、ナット、ワッシャー、金属片、切粉、バリ、溶接のスパッタ、研削粉、結束バンド、テープや養生シートの切れ端、ウエスの繊維、工具の破損片工具や部品の置き忘れ、締め付け不足による脱落、切断や研削で出た粉の拡散、養生材の剥がれ
化学的なコンタミ潤滑油、グリース、防錆剤、溶剤、接着剤、塗料、洗浄剤の残り食品に接触する可能性のある箇所への不適切な潤滑剤の使用、過剰な給油、容器の取り違え、作業後の拭き取り不足
微生物・アレルゲンのコンタミ工具、部品、手袋、ウエスを介した汚れの持ち込み、アレルゲンが残った設備の分解による飛散床や排水まわりに置いた部品の再使用、汚染区域と清潔区域を行き来する工具、分解前後の洗浄・殺菌の不足
設備の保全作業で起きるコンタミを、物理的・化学的・微生物とアレルゲンの3種類に分けて示した図

物理的なコンタミは、目に見える異物として発見されやすい一方、化学的なコンタミは、潤滑油のにじみのように、気づかないうちに進行することがあります。どれも、作業の前後に「持ち込んだものを、すべて持ち出したか」を確認する仕組みで、大幅にリスクを減らせます。

作業前から作業後までの管理の流れ

保全作業のコンタミ対策は、作業を始める前、作業中、作業後の3つの段階に分けて、ルールを決めておくのが基本です。段階ごとにやることを整理しました。

作業前|作業の許可とリスクの確認

作業を始める前に、「何を、どこで、誰が行うか」を作業指示書や作業許可の形で残します。あわせて、周囲の食品・包材・設備を守る方法を決めます。

  • 作業する範囲の生産を止め、食品・原料・包材を撤去またはカバーで保護する
  • 作業で使う工具、部品、薬品の一覧を作り、持ち込む数量を記録する
  • 作業のリスク(切断、研削、溶接、潤滑、塗装など)を確認し、飛散を防ぐ方法を決める
  • 作業者の教育状況を確認する(外部業者は入場前の教育を行う)

作業中|工具・部品の管理と区域の分け方

作業中は、工具と部品を「見える管理」にするのが効果的です。工具の置き場に輪郭を示すシャドーボードを使い、持ち出しと返却を確認できるようにします。ネジやボルトなどの小さな部品は、使う数と取り外した数を記録しておくと、紛失に気づきやすくなります。

  • 工具は専用の置き場所で管理し、持ち出し・返却を記録する
  • 切断、研削、溶接などの粉や火花が出る作業は、製造区域の外で行うか、飛散を防ぐ囲いを設ける
  • 製造区域では、使い捨ての養生材や結束バンドの使用数を管理する
  • 汚染区域で使った工具を、そのまま清潔区域に持ち込まない
設備の保全作業を作業前・作業中・作業後の3つの段階に分けて、確認する項目を示した図

作業後|撤去確認から再開承認まで

作業後の確認が、混入を防ぐ最後の関門です。チェックリストにして、作業者と別の担当者が確認するのが望ましい流れです。

確認項目内容
工具・部品の確認持ち込んだ工具と部品の数量が、持ち出した数と一致しているか
養生材・資材の撤去養生シート、テープ、結束バンド、ウエスなどがすべて撤去されているか
締め付け・固定の確認ボルトやネジの締め付け、ゆるみ止めが完了しているか
清掃・洗浄・殺菌食品の接触面と周囲を洗浄・殺菌し、潤滑剤や汚れを拭き取ったか
試運転・初品の確認空運転で異音や漏れがないか確認し、最初の製品は金属検出器などで確認・必要に応じて廃棄する
再開の承認品質保証などの責任者が、チェックリストを確認して製造の再開を承認する

洗浄の考え方は、CIP洗浄の完全ガイドも参考になります。作業後に「製造を再開してよい」と判断する担当者を、あらかじめ決めておくことが大切です。

潤滑油・グリースの管理|食品機械用潤滑剤の使い分け

保全作業に伴う化学的なコンタミで、最も多いのが潤滑油やグリースです。設備の潤滑は欠かせない作業ですが、食品に混入しないための選び方と使い方があります。

食品機械用潤滑剤の区分(H1・H2)

食品工場で使う潤滑剤には、NSF(米国の第三者認証機関)の区分があり、一般にH1とH2が使い分けられています。H1は、食品に偶発的に接触する可能性のある箇所向け、H2は、食品に接触しない箇所向けの区分です。また、潤滑剤の製造や使用の衛生要件を定めた国際規格として、ISO 21469があります。

区分使う箇所の目安ポイント
H1食品に偶発的に接触する可能性のある箇所(食品の上や近くにある軸受、チェーンなど)食品に触れる可能性が少しでもある箇所では、H1相当を選ぶ
H2食品に接触しないことが確実な箇所(食品から離れた駆動部など)混入の経路がないか、飛散や落下を確認してから採用する

区分の詳しい定義や、製品が登録されているかは、潤滑剤メーカーの資料とNSFの公式情報で確認してください。なお、食品に接触する箇所では、H1相当を選ぶという考え方が一般的です。

誤使用と過剰給油を防ぐ仕組み

適切な潤滑剤を選んでも、誤った箇所への使用や給油しすぎがあると、混入の原因になります。管理の方法として、次のようなルールが有効です。

  • 給油箇所の一覧(台帳)を作り、箇所ごとに使う潤滑剤の種類、給油量、頻度を決める
  • 潤滑剤の容器やグリースガンに色分けや名称表示をつけ、取り違えを防ぐ(法令でも、化学物質の容器への名称表示などが求められています)
  • 食品の接触面に近い箇所は、給油の量を最小限にし、はみ出た分は拭き取る
  • 定期の点検で、潤滑剤の漏れ、にじみ、垂れ落ちを確認する
  • 食品の上を通る箇所の潤滑は、可能な限り、製造区域の外から給油できる構造にする

外部業者・設備工事を受け入れるときのルール

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外部の業者や、増設・改修などの工事は、保全作業の中でも持ち込まれる物と人が多くなり、リスクが高まります。受け入れのルールを事前に決めておき、業者にも共有しましょう。

入場前の教育と持ち込み品の管理

  • 入場前に、食品工場の衛生ルール(服装、手洗い、持ち込み禁止物、区域の移動)を教育し、記録を残す
  • 工具・資材・薬品の持ち込みリストを事前に提出してもらい、入退場時に数量を確認する
  • 作業着や履物は、工場のルールに合わせたものを着用してもらう
  • 食品や包材の近くでは、作業エリアを囲い、立入りを制限する

外部の人の入場管理は、食品防御(フードディフェンス)の観点でも重要です。詳しくはフードディフェンス対策ガイドをご覧ください。

工事中の粉じん・空気の流れと、工事後の確認

壁や天井の工事、配管の施工では、粉じんが製造区域に拡散するおそれがあります。工事の区画と製造区域の間に養生を設け、空気の流れ(圧力差)が崩れていないかも確認しましょう。空気の流れの考え方は、空気の流れが乱れる原因と診断の記事で解説しています。

工事後は、洗浄と殺菌を行ったうえで、必要に応じて拭き取り検査などで清浄度を確認してから、製造を再開します。工事の内容によっては、保健所への相談や届出が必要になる場合もあるため、計画の段階で自治体に確認してください。

食品工場の設備担当者が、工具の置き場に輪郭を示したシャドーボードで、工具がすべて戻っているか確認している様子

設備の側でできるコンタミ対策

ルールや確認に頼るだけでなく、設備の設計や選び方でも、保全に伴うコンタミのリスクを下げられます。設備の更新や改修を検討する際の視点を紹介します。

  • 点検口、給油口、調整部を、食品の接触面や製品の流れの上から離れた位置にする
  • 脱落しにくいボルトやゆるみ止めを採用し、部品が取り外しやすく、紛失しにくい構造にする
  • 洗浄しやすい形状にして、分解・組み立ての手間を減らす
  • 集中給油の仕組みなどで、製造区域内での給油作業そのものを減らす
  • 金属検出器やX線検査機を設置し、ネジなどの部品が検出できる材質か、テストピースで感度を確認する(金属探知機 導入ガイド、感度設定・精度管理ガイドも参照)

古い設備ほど、保全の頻度が増え、作業中の混入リスクも高まります。更新の目安は、生産設備の更新・入れ替えの目安の記事でも解説しています。


まとめ:保全作業を「製造ルールの外」に置かない

設備のメンテナンス・修理・工事は、非定常で外部の人も関わるため、日常のルールの外に置かれやすく、コンタミの発生源になりがちです。作業前の許可とリスク確認、作業中の工具・部品の管理、作業後の撤去確認と再開承認という流れを、チェックリストにして運用することが、混入を防ぐ基本です。潤滑剤は食品に接触する可能性のある箇所でH1相当を選び、給油箇所の台帳と色分けで誤使用を防ぎましょう。

なお、本記事は食品衛生法施行規則の別表第十七などの公開情報にもとづく一般的な整理であり、個別の工場に適した手順を示すものではありません。自社の製品・設備・認証規格(HACCP、FSSC22000など)の要求に合わせて、社内の手順を決めてください。衛生管理全般の整備は、衛生管理マニュアルの記事、設備の改善や製造ライン全体の見直しは、食品工場の生産ライン改善・設備導入のご案内もご覧ください。

保全しやすく、衛生的な設備づくりや、製造ラインの改善についてご相談されたい場合は、お気軽にお問い合わせください。

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今井 正久 プロフィール写真
サイト運営者・代表者紹介
今井 正久
FMネットワーク・エンタープライズ株式会社 代表取締役CEO
食品工場設備衛生管理・HACCPCIP洗浄異物混入対策生産ライン設計省エネ設備DX化推進
食品機械エンジニアとして20年以上のキャリアを持つ食品工場専門コンサルタント。国内外300社以上の食品工場で設備設計・生産ライン構築・衛生管理体制の整備を支援してきた実績を持つ。HACCP義務化対応・FSSC22000認証取得・異物混入対策・CIP洗浄システム導入・DX化推進など、食品安全と生産性向上の両立を得意とする。