「冷凍庫や冷蔵庫の点検は、年に一度メンテナンス業者に任せている。それで十分なはず」。食品工場の設備担当者から、そんな声を聞くことがあります。ところが、業務用の冷凍冷蔵設備にフロン類が使われている場合、所有者である工場自身に、法律上の点検や記録の義務が課されています。
フロン排出抑制法では、3か月に1回以上の簡易点検、一定規模以上の機器の定期点検、点検・整備記録の保存、廃棄時のフロン類回収など、管理者が果たすべき責務が細かく定められています。業者任せにしていたつもりでも、管理者はあくまで設備を所有する側であり、「知らなかった」では済まされない場面が出てきます。
本記事では、環境省・経済産業省が公表している「機器ユーザー向け」の資料をもとに、食品工場の冷凍冷蔵設備がどのような場合に対象となるのか、点検と記録、漏えいが見つかったときの対応、設備の更新・廃棄時の義務までを、実務の流れに沿って整理します。
まず確認|どの設備が対象で、誰が「管理者」なのか
義務の中身に入る前に、自社の設備が対象かどうか、そして誰が管理者に当たるのかを押さえておく必要があります。ここを誤解したまま進めると、点検の抜け漏れにつながります。
対象は「業務用で、フロン類を使っている冷凍冷蔵・空調機器」
対象となるのは、業務用の空調機器や冷凍冷蔵機器のうち、冷媒にフロン類を使っているものです。食品工場でいえば、冷凍庫・冷蔵庫(定置型の冷凍冷蔵ユニット)、冷凍冷蔵ショーケース、チラー、事務所や作業室の業務用エアコンなどが該当し得ます。一方、冷媒がCO2やアンモニアなどの自然冷媒の機器や、HFOなどフロン類以外を使っている機器は対象外です。どちらに当たるかは、機器に貼られたステッカーで確認できます。
管理者は原則として設備の「所有者」
管理者は原則として、機器の所有者です。ただし、リース契約などで保守・修繕の責務を所有者以外が負うと書面で定められている場合は、その者が管理者になります。また、保守点検を外部のメンテナンス業者に委託している場合でも、委託先の業者ではなく、委託元の所有者側が管理者に当たる点には注意が必要です。所有者と使用者のどちらが管理者か曖昧なときは、まず契約書を相互に確認して明確にしておきましょう。
点検の義務|簡易点検と定期点検の違い
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管理者に求められる点検は、「簡易点検」と「定期点検」の2種類です。どちらも頻度と実施者の条件が異なるため、一覧で整理しておくと運用しやすくなります。
| 点検の種類 | 対象機器 | 頻度 | 実施者 |
|---|---|---|---|
| 簡易点検 | すべての対象機器 | 3か月に1回以上 | 具体的な限定なし(自社の担当者でも可) |
| 定期点検(冷凍冷蔵機器) | 圧縮機の定格出力が7.5kW以上 | 1年に1回以上 | 十分な知見を有する者が自ら行うか立ち会う |
| 定期点検(エアコン) | 定格出力50kW以上/7.5kW以上50kW未満 | 1年に1回以上/3年に1回以上 | 十分な知見を有する者が自ら行うか立ち会う |
簡易点検|自社でできる「目視」の点検
簡易点検は、実施者を限定せず、すべての対象機器に3か月に1回以上義務づけられています。見るポイントは、庫内の温度、熱交換器の霜付きの有無、室外機の油のにじみや腐食、機器の損傷・異音・異常振動などです。記録に残すべき内容は、機器の基礎情報を除けば「実施日」と「実施の有無」だけなので、日常の巡回点検に組み込みやすい点検といえます。なお、基準を満たした常時監視システムを使って漏えいを早期に発見する措置を講じている場合は、簡易点検に代えることもできます。

定期点検|出力7.5kW以上の冷凍冷蔵機器は年1回
圧縮機の電動機の定格出力が7.5kW以上の冷凍冷蔵機器は、1年に1回以上の定期点検が必要です。こちらは、十分な知見を有する者が自ら行うか、立ち会って実施します。漏えい箇所を調べる方法には、蛍光剤や発泡液、電子式の漏えい検知機を使う「直接法」と、運転値が日常値からずれていないかをチェックシートで確認する「間接法」があり、組み合わせて行うこともできます。定格出力は機器の銘板で確認でき、「呼称出力」や「電動機出力・圧縮機」といった表記の場合もあります。

漏えいが見つかったときの対応と、記録・報告のルール
点検で冷媒の漏えいやその疑いが見つかった場合や、日々の記録の残し方、国への報告が必要になる基準についても、あらかじめ押さえておきましょう。
修理せずに冷媒だけ足すのは原則禁止
冷媒の漏えいが確認された場合、修理をしないままフロン類を充塡することは原則として禁止されています。可能な限り速やかに漏えい箇所を特定し、必要な措置を講じる必要があります。また、フロン類の充塡や回収は、都道府県に登録された第一種フロン類充塡回収業者に委託しなければならず、作業後には充塡証明書・回収証明書が交付されます。「冷えが悪いので冷媒を足しておく」といった対応は、運用ルールとして禁止しておくのが安全です。
点検整備記録簿は機器ごとに作り、3年間保存する
点検と整備の記録は機器1台ごとに記録簿を作成し、機器を廃棄するためのフロン類の引渡しが完了した日から3年間保存します。整備業者から求められた場合は、記録を開示する必要もあります。様式は、業界団体の日本冷凍空調設備工業連合会が記入例を公開しており、簡易点検の進め方も同団体の手引きが参考になります。
年間1,000t-CO2以上の漏えいは国への報告が必要
事業者として年間の算定漏えい量が二酸化炭素換算で1,000トン以上となる場合は、翌年度の7月末日までに国へ報告する必要があります。算定漏えい量は、充塡証明書と回収証明書をもとに、充塡量から整備時の回収量を差し引き、冷媒ごとの地球温暖化係数を掛けて求めます。機器の設置時の充塡量や廃棄時の回収量は算定の対象外です。報告の対象にならない場合でも、すべての事業者に充塡量(漏えい量)の把握は求められるため、充塡証明書は確実に保管しておきましょう。
設備を更新・廃棄するときの義務
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冷凍庫やチラーの入れ替えは、点検義務とは別に、廃棄時のフロン類回収という重要な義務が発生するタイミングです。ここでのミスは罰則に直結するため、手順を確認しておきましょう。
フロン類の回収と「行程管理票」の保存
機器を廃棄したり、リサイクル目的で譲渡したりする場合は、あらかじめフロン類を第一種フロン類充塡回収業者に引き渡す(回収してもらう)必要があります。依頼は「回収依頼書」で行い、回収後に交付される「引取証明書」の原本を3年間保存します。設備業者や解体業者を経由して依頼する場合は「委託確認書」を渡す必要があります。フロン類を回収せずに機器を廃棄すると、都道府県による勧告や命令を経ずに罰則が適用される「直接罰」の対象となります。実際に、フロンをそのまま大気中に放出したとして、解体業者などが書類送致や逮捕に至った事例も公表されています。「長年使っていないからフロンは残っていないはず」と口頭で伝えて引き取らせるような対応は避けてください。

更新を機に、省エネ・低GWPの機器も検討する
設備を入れ替えるなら、点検・報告の負担や電気代の面から、機種の選び方も見直す好機です。冷媒がフロン類でない自然冷媒の機器は、フロン排出抑制法の対象外になります。ただし、機種ごとに別の安全管理が必要になる場合があるため、導入前に業者へ確認してください。省エネ設備の考え方は食品工場の電気代を半分にする省エネ設備戦略、更新時期の判断は食品工場の生産設備、更新・入れ替えの目安は何年?が参考になります。業者選びで後悔しないための視点は設備投資、業者選びで後悔しないための5つの視点で解説しています。
今日から始める3つのステップ
制度の全体像がつかめたら、次は自社の現状を棚卸しして、運用の仕組みに落とし込んでいきましょう。まずは次の3つから始めるのが現実的です。
ステップ1|機器の台帳をつくる
工場内の冷凍冷蔵機器・空調機器をすべて洗い出し、冷媒の種類、圧縮機の定格出力、設置場所、所有者(管理者)、導入年を一覧にします。これが定期点検の要否を判断する土台になります。
ステップ2|点検の予定と担当者を決める
簡易点検は3か月に1回、定期点検は年1回というサイクルを年間カレンダーに落とし込み、担当者を決めます。設備の突発停止を防ぐ観点では、予防保全・予知保全の実践ガイドと組み合わせると、点検が日常業務として定着しやすくなります。
ステップ3|故障時のBCPにも組み込む
冷凍庫や冷蔵庫の故障は、在庫の品質事故に直結します。連絡先の登録業者、代替の保管場所、判断基準などをあらかじめ決めておくことが重要です。事業継続の考え方は食品工場のBCP(事業継続計画)策定完全ガイドで解説しています。急速凍結設備の特徴はボイル殺菌・冷却技術と急速凍結技術ガイドもあわせてご覧ください。
まとめ:フロンの点検は「業者任せ」ではなく「管理者の責務」
フロン排出抑制法では、業務用の冷凍冷蔵設備を所有する工場自身が管理者として、3か月に1回の簡易点検、一定規模以上の機器の定期点検、記録の3年保存、廃棄時のフロン類回収といった責務を負っています。メンテナンスを業者に委託していても、管理者の責任がなくなるわけではありません。まずは機器の台帳づくりから始め、点検を年間スケジュールに組み込んでいきましょう。
なお、本記事は環境省・経済産業省が公表している機器ユーザー向けの概要資料をもとにした一般的な整理です。個別の機器が対象になるかどうかや最新の運用については、環境省のフロン排出抑制法ポータルサイトや、各都道府県の担当窓口でご確認ください。
冷凍冷蔵設備の更新計画や、設備の点検・保全体制の見直しについてご相談されたい場合は、お気軽にお問い合わせください。
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