「5Sはやっているはずなのに、なぜか現場が片付かない」「ポスターを貼って号令をかけても、3か月後には元通り」。食品工場の現場を回っていると、こうした相談を本当によく受けます。整理・整頓・清掃・清潔・しつけという5つの言葉自体は誰もが知っていますが、定着させて成果まで結びつけられている工場は、正直なところそれほど多くありません。
私自身、食品機械エンジニアとして20年以上、全国300社以上の食品工場の改善支援に携わってきましたが、5S活動が「貼り紙だけで終わる現場」と「数字に表れる成果を出す現場」の差を、何度も目の当たりにしてきました。この記事では、私が実際にある中規模の食品加工工場(以下A工場)の5S活動立て直しに伴走した際に、何をどう変え、結果として何が起きたのか、そしてうまくいかなかった部分まで含めて、実体験として詳しくお伝えします。これからご自身の工場で5Sに本気で取り組みたいと考えている工場長・品質管理担当の方に、具体的な手順として参考にしていただければと思います。
支援を始めたきっかけ:異物混入クレームの裏にあった「散らかった現場」
A工場からご相談をいただいたきっかけは、5S活動そのものではなく、お客様からの異物混入クレームでした。原因調査のために現場に入らせていただいたところ、製造ラインの周辺に使われていない治具や予備部品が長期間放置され、清掃用具の置き場も決まっておらず、作業員ごとに片付け方がバラバラという状態でした。
クレームの直接原因は別の要因だったのですが、現場を見た瞬間に「この状態では遅かれ早かれ同じような問題が再発する」と感じました。実際にA工場の品質管理担当の方にヒアリングすると、5S活動自体は数年前から「やっているつもり」ではあったものの、月初に全員でポスターを見ながら唱和するだけの形骸化した取り組みになっていたのです。ここから、私が伴走する形で5S活動の立て直しに着手することになりました。

実際に行った4つの取り組み
形骸化した5Sを立て直すにあたって、私たちは「精神論で終わらせず、仕組みとして回す」ことを最優先に考えました。具体的に行ったのは次の4つです。
1. 赤札作戦で「いる・いらない」を数値化した
最初に行ったのは、製造エリア全体に対する赤札作戦です。1か月以上使用していないもの、用途が不明なものすべてに赤い札を貼り、台帳に「品目・数量・最終使用日・判断者」を記録しました。A工場では初回の赤札作戦だけで、対象エリアにあった備品・治具・予備部品の約3割に赤札が付きました。これを工場長・各ライン責任者で確認し、「廃棄」「他部署へ移管」「定位置を決めて保管」の3つに仕分けていきました。感覚で「いらないものを片付けよう」と呼びかけるのではなく、数字として可視化したことで、誰の目にも「これだけ不要なものが現場にあった」という事実が共有できたのが大きかったと感じています。
2. 定位置・定品・定量を写真付きの掲示で固定化した
整理が終わった後は、残すと決めたものすべてに「どこに・何を・いくつ置くか」を写真付きで掲示し、誰が見ても一目で分かる状態を作りました。文字だけのルールは現場で形骸化しやすいため、実際の置き方を撮影した写真をラミネート加工して棚や工具置き場に貼り付け、その状態と現物が一致しているかを毎日の終業時にチェックする運用に変えました。これにより、新人やパート従業員でも迷わず元の場所に戻せるようになり、「誰かが片付けてくれるはず」という曖昧さがなくなりました。
3. 清掃チェックリストをエリアごとに分担・記録制にした
清掃についても、「みんなでやる」から「担当エリアと担当者を明確に割り振る」方式に変更しました。各エリアに清掃チェックリストを設置し、清掃実施者がチェックと署名を残す仕組みにしたことで、清掃のムラや抜けが目に見えるようになりました。チェックリストは週次でライン責任者が回収し、未実施が続くエリアがあれば朝礼で取り上げる、というサイクルを作りました。

4. 月次5Sパトロールを採点制にして経営層も参加させた
最後に取り入れたのが、月1回の5Sパトロールです。エリアごとに整理・整頓・清掃の状態を5段階で採点し、結果を工場内に掲示しました。ここで重要だったのは、採点する側に現場の作業員だけでなく、工場長や経営層にも必ず加わってもらったことです。普段現場に出ない立場の人が見て回ることで、「見られている」という緊張感が生まれ、点数の低かったエリアには改善が早く入るようになりました。
半年後に見えてきた成果
取り組みを開始してから半年が経過した時点で、いくつかの変化が数字として表れてきました。すべてが計画通りに進んだわけではありませんが、現場の実感としても明確な違いが出ていました。
| 指標 | 着手前 | 半年後 |
|---|---|---|
| 5Sパトロール平均点(5点満点) | 2.1点 | 4.0点 |
| 工具・治具の捜索時間(体感) | 1回あたり5〜10分 | 1回あたり1分未満 |
| 異物混入関連クレーム件数(半年間) | 3件 | 0件 |
| 設備の小規模な不具合発見数 | 月1〜2件 | 月4〜5件(早期発見が増加) |
特に印象的だったのは、設備の小規模な不具合の発見数が増えたことです。これは一見ネガティブな数字に見えますが、実際には現場が整理されたことで、油漏れやボルトの緩みといった「これまで散らかった環境に紛れて見過ごされていた異変」に作業員が気づきやすくなったことを意味します。整理整頓は、こうした予防保全の入り口としても機能することを、改めて実感しました。設備の不具合に早く気づける現場づくりという観点では、予防保全・予知保全ガイドで紹介している日常点検の考え方とも強く重なる部分です。
また、5S活動を通じて「誰がどの作業エリアの状態に責任を持つか」が明確になったことで、結果的に作業者ごとのスキル差や担当業務の偏りも見えやすくなりました。これは副次的な効果でしたが、多能工育成ガイドで取り上げているスキルマップの整備にもそのままつながる気づきでした。
正直に言うとうまくいかなかった部分・デメリット
成果だけを並べると順調に聞こえるかもしれませんが、実際には簡単ではありませんでした。今振り返って感じているデメリットや反省点も正直にお伝えします。
- 初動の工数が想像以上に大きい:赤札作戦と台帳作成だけで、製造を止めない範囲での作業に延べ約80時間を要しました。繁忙期に着手していたら現場の反発はもっと強かったはずです。
- 一部のベテラン従業員から強い反発があった:「長年このやり方でやってきた」という自負が強いベテラン作業員ほど、置き場所のルール変更に抵抗を示しました。最終的には個別に意図を説明し、本人の意見も一部ルールに反映する形で納得してもらいましたが、ここに想定以上の時間がかかりました。
- 採点制が形だけの「点数稼ぎ」に走るリスクがある:月次パトロールの直前だけ慌てて片付ける、というケースが一定数発生しました。抜き打ちでの確認も組み合わせる必要があると感じています。
- 定着までは継続的な伴走が必要:仕組みを作って終わりではなく、最低でも半年〜1年は外部の目(コンサルタントや経営層)が定期的に確認する体制がないと、再び形骸化するリスクが高いと感じました。
特に「採点制が点数稼ぎになる」という問題は、5S活動でよく聞く失敗パターンでもあります。形だけ整えても、衛生管理という本来の目的を見失っては意味がありません。5Sはあくまで衛生管理全体の土台の一部であり、食品工場の衛生管理 完全ガイドで解説しているような清掃・殺菌・人的管理といった他の取り組みと合わせて、初めて効果を発揮するものだと改めて感じています。
これから5Sに取り組む工場へのアドバイス
もしこれから5S活動を立て直そうとしているなら、私からお伝えしたいのは「まず数字で現状を可視化すること」と「採点する仕組みに現場以外の目を入れること」の2点です。精神論や号令だけでは、どんな現場でも長くて3か月程度で元に戻ってしまいます。逆に言えば、仕組みとして回す仕掛けさえ作ってしまえば、5Sは特別な投資がなくても始められ、かつ異物混入対策・設備保全・人材育成のすべてにプラスの波及効果をもたらす、コストパフォーマンスの高い取り組みだと考えています。
A工場では、5S活動の立て直しをきっかけに、現場の従業員から「ここはこうした方がいいのでは」という改善提案が自発的に出るようになりました。これは数字には表れにくい変化ですが、現場が長期的に良くなっていく上で、もっとも価値のある成果だったと感じています。
まとめ
5S活動は、やり方さえ間違えなければ、特別な設備投資をせずに現場の品質と安全性を底上げできる取り組みです。今回ご紹介したA工場の事例では、赤札作戦による可視化、定位置の写真掲示、清掃の分担と記録、経営層も加わる月次パトロールという4つの仕組みを組み合わせることで、半年で異物混入クレームをゼロにし、設備不具合の早期発見数も増やすことができました。一方で、初動の工数の大きさやベテラン従業員の反発、点数稼ぎ化のリスクといった、実際にやってみないと分からない壁もありました。これから5Sに本気で取り組む工場には、号令だけで終わらせず、数字と仕組みで回す体制づくりから始めることを強くおすすめします。













