「亜塩素酸水」と「次亜塩素酸水」。名前が1文字違いなだけで、同じものだと思われがちですが、食品添加物としては別の殺菌料です。取引先の品質保証担当から「御社で使っている殺菌料はどちらですか」と聞かれて、答えに詰まった経験がある方もいるのではないでしょうか。
この亜塩素酸水は今、食品安全委員会で使用基準の見直しに向けた評価が行われています。2026年10月7日には第211回添加物専門調査会が開かれ、議題として取り上げられました。ただし、これは今回初めての審議ではなく、2022年12月の厚生労働大臣からの評価要請を受けて、2023年から続いている審議の一部です。10月7日の会合も「継続審議」となっており、結論はまだ出ていません。
本記事では、亜塩素酸水とはどのようなものか、次亜塩素酸水との違い、現在の使用基準、そして審議中の改正案とその論点を、食品安全委員会の公開資料にもとづいて整理します。審議は途中経過であり、改正案は確定ではありません。そのうえで、食品工場の現場として今何をしておけばよいかも解説します。なお、本記事は2026年10月7日時点の情報です。
亜塩素酸水とは|食品添加物の「殺菌料」
亜塩素酸水は、食品の殺菌に使われる食品添加物(殺菌料)の一つです。まずは、どんな物質で、どのように指定されてきたのかを確認しておきましょう。
主成分は亜塩素酸(HClO2)
主たる有効成分は亜塩素酸(HClO2)で、薄い黄緑色から黄赤色の透明な液体です。塩素のにおいがあります。製造方法は、食塩水を電気分解して得た塩素酸ナトリウムに硫酸を加えて塩素酸をつくり、さらに低濃度の過酸化水素水を加えて亜塩素酸を得るというものです。製品としての含量は亜塩素酸として4.0〜6.0%で、使用時に必要な濃度まで希釈して使います。
2013年に食品添加物として指定された
日本では、殺菌や漂白に使われる塩素系の食品添加物として、1948年に亜塩素酸ナトリウム、1950年に次亜塩素酸ナトリウム、1953年に二酸化塩素、1959年に高度サラシ粉、2002年に次亜塩素酸水が指定されてきました。亜塩素酸水は、2006年に評価が要請され、食品安全委員会が2008年に評価結果を取りまとめたのち、2013年2月に厚生労働省が食品添加物として指定しています。この評価では、一日摂取許容量(ADI)が亜塩素酸イオンとして0.029mg/kg体重/日と設定されました。
次亜塩素酸水との違い|名前は似ていても別の添加物
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検索でもっとも多い疑問が、この2つの違いです。主成分も製法も指定時期も異なります。次の表で全体像を押さえましょう。
| 項目 | 亜塩素酸水 | 次亜塩素酸水 |
|---|---|---|
| 主な有効成分 | 亜塩素酸(HClO2) | 次亜塩素酸(HClO) |
| 食品添加物としての指定 | 2013年2月 | 2002年 |
| 主な製法 | 塩素酸に過酸化水素を加えて得る(原液は亜塩素酸として4.0〜6.0%、使用時に希釈) | 塩酸または食塩水を電気分解して得る |
| 使用できる食品 | 精米・豆類・野菜・果実・海藻類・鮮魚介類・食肉などに限定 | 別の使用基準が定められている |
このように、亜塩素酸水は「電気分解でつくる次亜塩素酸水」とは別の物質です。次亜塩素酸水の使用基準や活用方法は、次亜塩素酸の使用基準とその影響と厚生労働省が食品添加物として指定した次亜塩素酸水についてで解説しています。食品添加物全体の分類は食品添加物の種類と使用基準もあわせてご覧ください。
現行の使用基準|どの食品に、どれだけ使えるのか
食品添加物は、使える食品と使用量がルールで決まっています。現在有効な亜塩素酸水の使用基準は、大きく「使える食品」「使用量」「除去の義務」の3点です。
使えるのは限られた食品だけ
亜塩素酸水は、精米、豆類、野菜(きのこ類を除く)、果実、海藻類、鮮魚介類(鯨肉を含む)、食肉、食肉製品、鯨肉製品、およびこれらを塩蔵・乾燥などで保存したもの以外の食品には使用できません。たとえば、きのこ類は現行では使用対象に含まれていません。
使用量の上限と、最終食品での除去
使用量は、亜塩素酸として、浸漬液または噴霧液1kgにつき0.40g以下(400ppm)とされています。また、使用した亜塩素酸水は、最終食品の完成前に分解するか除去しなければなりません。つまり、殺菌後に十分な水洗などを行い、食品に残さない運用が前提です。

食品安全委員会で審議中|使用基準の改正案と論点
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現在、亜塩素酸水の使用基準を改正することを前提に、食品安全委員会が食品健康影響評価を進めています。審議の経緯と、改正案の中身、そして議論になっている論点を順に見ていきます。
2022年12月の要請から約4年にわたる継続審議
2022年12月、厚生労働大臣から食品安全委員会に対し、亜塩素酸水の規格基準の改正に係る食品健康影響評価が要請されました。2023年2月の第190回添加物専門調査会から審議が始まり、要請者への補足資料の提出依頼を挟みながら、2026年に入ってからも3月から7月、9月と審議が重ねられてきました。2026年10月7日の第211回では、公表された議事概要によると、品目の概要について審議が行われ、継続審議となっています。

改正案の中身|きのこ類の追加と、使用量上限の見直し
要請されている改正の柱は2つあります。1つは、現行では対象から除かれているきのこ類を使用対象に加えること。もう1つは、使用量の上限の見直しです。当初の2023年の資料では上限の規定を削除する内容でしたが、2026年10月7日の事務局資料では、上限を残したうえで用途に応じて引き上げる案が示されています。具体的には、表面殺菌またはバッチ式の浸漬で使う場合に、精米・豆類は浸漬液1kgにつき0.80g以下、野菜・果実・海藻類・鮮魚介類・食肉などは4.0g以下とする案です。次の表に、現行との違いを整理します。
| 項目 | 現行の使用基準 | 審議中の案(確定ではありません) |
|---|---|---|
| きのこ類 | 使用対象に含まれない | 使用対象に加える案 |
| 使用量の上限(浸漬液・噴霧液1kgあたり、亜塩素酸として) | 0.40g以下(400ppm) | 表面殺菌・バッチ式浸漬の場合、精米・豆類は0.80g以下、野菜・果実・魚介・食肉などは4.0g以下とする案 |
| 最終食品での扱い | 完成前に分解または除去 | 同じ(分解または除去) |

論点|臭素酸と、高濃度使用時の残留データ
議論の中心にあるのは、臭素酸です。臭素酸は遺伝毒性のある発がん物質と疑われており、亜塩素酸水の原料に含まれる臭化物から生じる可能性があります。このため、指定時から原料の塩化ナトリウムに日本薬局方のものを使う製造基準が設けられ、製品である亜塩素酸水中の臭素酸は水道水質基準(0.01mg/L)と同レベルになるようリスク管理されてきました。この管理は、400ppmで使うことを前提に検討されたものです。
濃度を引き上げる案については、800ppmの精米・豆類(加水加熱を前提)は追加試験の必要性が低いとの整理が示されています。一方、4,000ppmで使う野菜などでは、殺菌液中の成分が水道水の基準を上回るため、洗浄液の残留塩素濃度が1ppm付近になる前後の複数の時点で、食品中の残留データを確認する必要があるとされています。これらは審議中の論点であり、結論は出ていません。
食品工場の現場が押さえておきたいこと
審議の途中経過を前に、現場として慌てる必要はありません。ただし、今のうちに確認しておくと安心な点がいくつかあります。
今すぐ使い方が変わるわけではない
現在有効なのは、あくまで現行の使用基準です。厚生労働省は、食品安全委員会から評価結果の通知を受けたあとに、使用基準の改正を検討するとしています。つまり、改正が実際に施行されるまでには、評価の取りまとめ、国民からの意見募集、厚生労働省での手続きなど、複数の段階があります。最新の状況は、食品安全委員会の添加物専門調査会のページや、第211回の資料で確認できます。
殺菌料は「濃度・対象食品・水洗・記録」で管理する
亜塩素酸水に限らず、食品添加物の殺菌料を使う工場では、使用濃度、使える食品かどうか、水洗による除去、そして記録の4点が管理の基本になります。使用している殺菌料の種類と対象食品、希釈の方法、水洗の条件を一覧にしておけば、取引先や監査から「どの殺菌料を、どの食品に、どの濃度で使っていますか」と聞かれたときにも答えやすくなります。
自社の殺菌・洗浄の方法を棚卸しする
食品に使う殺菌料と、設備や器具の洗浄・除菌に使う薬剤は、考え方が別です。設備側の洗剤・除菌剤の選び方は食品工場の洗剤・洗浄剤の選び方で解説しています。現場で除菌水を生成して使う選択肢を検討する場合は、次亜塩素酸水生成装置ガーディアンロックのページもご覧ください。
まとめ:亜塩素酸水は「別の添加物」、審議は途中経過
亜塩素酸水は、2013年に指定された、亜塩素酸(HClO2)を主成分とする殺菌料で、電気分解でつくる次亜塩素酸水とは別の食品添加物です。現行の使用基準では、使える食品が限られ、使用量は400ppm以下、最終食品の完成前に除去することが求められます。使用基準の改正は2022年12月の要請から約4年にわたって審議されており、2026年10月7日の第211回も継続審議となりました。きのこ類の追加や使用量上限の引き上げ案が示されていますが、確定したものではありません。
殺菌・洗浄を含めた衛生管理の全体像は食品工場の衛生管理 完全ガイドで体系的に解説しています。本記事は食品安全委員会の公開資料をもとにした一般的な整理であり、個別の使用可否は最新の告示や所管官庁の情報でご確認ください。殺菌・衛生管理の仕組みづくりについてご相談されたい場合は、お気軽にお問い合わせください。
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