「ヒヤリとしたけど、今回は何もなかったから大丈夫」。現場でそう感じた瞬間はないでしょうか。食品工場は、衛生管理や異物混入対策には力を入れていても、従業員自身がケガをする「労働災害」への対策は後回しになりがちです。しかし実際には、食品工場は他の製造業に比べて労働災害が起きやすい職場だということをご存知でしょうか。
ベルトコンベヤへの巻き込まれ、スライサーによる切創、水濡れした床での転倒。こうした事故は一度発生すると、被災した従業員本人はもちろん、労働基準監督署への報告、生産ラインの停止、他の従業員の不安など、工場運営全体に大きな影響を及ぼします。「うちは長年大きな事故が起きていないから大丈夫」という状態は、たまたま運が良かっただけかもしれません。
本記事では、食品工場に労働災害が多い理由をデータで確認したうえで、実際に多い事故の型とその原因、そして厚生労働省が推奨する「KYT(危険予知訓練)」の具体的な回し方、これを一過性の研修で終わらせず現場に定着させる仕組み化のポイントまでを解説します。
食品工場に労働災害が多い理由をデータで確認する
「食品工場の労働災害は特別多いわけではないだろう」と感じるかもしれませんが、統計を見るとその認識は改める必要があります。
発生頻度は全産業平均の約2倍、製造業平均の約3倍
厚生労働省・農林水産省の資料によると、食品産業における労働災害の発生頻度は全産業平均の約2倍、製造業平均に対しては約3倍という水準にあります。食品工場は「刃物」「高速で動く機械」「水や油で濡れた床」「低温・高温の作業環境」が日常的に混在する、労働災害が起きやすい条件がそろった職場だといえます。
食料品製造業で目立つ「はさまれ・巻き込まれ」
労働災害の型別に見ると、多くの業種で「転倒」が最多を占める一方、食料品製造業では「はさまれ・巻き込まれ」災害の比率が20%を超えており、酒類・飲料製造業では型別の1位になっています。はさまれ・巻き込まれ災害は指の切断や骨折など重篤化しやすいことが特徴で、件数だけでなく被害の大きさという面でも軽視できません。

食品工場で実際に多い事故の型と、その発生原因
統計上多いとされる事故が、自社工場のどの工程・設備で起きやすいのかを具体的にイメージできているかどうかで、対策の実効性は大きく変わります。代表的な事故の型を整理しました。
はさまれ・巻き込まれ(ベルトコンベヤ・成形機・カッター)
稼働中のベルトコンベヤに詰まった原料を素手で取り除こうとした、清掃中に機械の電源を切り忘れた、袖口や手袋が回転部に巻き込まれたなど、「ちょっとだけだから」という気の緩みが引き金になるケースが目立ちます。安全カバーの取り外しが常態化している設備がないか、清掃・点検時の電源遮断(ロックアウト)が徹底されているかは、特に注意して確認すべきポイントです。
転倒(水濡れ床・段差・油汚れ)
洗浄工程が多い食品工場では、床が濡れている時間が長く、油分を含む汚れが加わると滑りやすさはさらに増します。急いでいるときほど小走りになり、わずかな段差や排水溝の蓋のズレでつまずくといった事故が起きやすくなります。
切れ・こすれ(スライサー・包丁・鋭利な金属端)
スライサーや包丁を使う工程はもちろん、開梱作業で使うカッターナイフや、設備の鋭利な金属端に触れてしまう軽微な切創も件数としては多く発生しています。軽微だからと放置せず、ヒヤリハットとして報告・共有する文化があるかどうかが、重篤な事故を防げるかの分かれ目になります。ヒヤリハットの報告・是正処置の仕組み化については食品工場のヒヤリハット報告・是正処置(CAPA)を立て直した実体験で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
| 事故の型 | 発生しやすい工程・設備 | 主な原因 |
|---|---|---|
| はさまれ・巻き込まれ | ベルトコンベヤ・成形機・ミキサー | 稼働中の点検・清掃、安全カバーの取り外し常態化 |
| 転倒 | 洗浄エリア・通路・搬入口 | 水濡れ・油汚れ・段差・小走り |
| 切れ・こすれ | スライサー・包丁・開梱作業 | 刃物の取り扱い不慣れ、鋭利な金属端への接触 |
| 墜落・転落 | タンク上部・高所の清掃・点検 | 脚立の不安定な使用、手すり・安全帯の未使用 |
KYT(危険予知訓練)の基本と、現場での回し方
KYTとは、作業を始める前に「どこにどんな危険が潜んでいるか」をチームで話し合い、対策を確認してから作業に入る手法です。厚生労働省が推奨する「KYT基礎4ラウンド法」が最も広く使われています。
KYT基礎4ラウンド法の流れ
3〜6人程度の少人数グループで、実際の作業現場の写真やイラストを見ながら「どんな危険が潜んでいるか」を出し合い(1ラウンド)、その中から重要なポイントを絞り込み(2ラウンド)、具体的な対策を立て(3ラウンド)、チームの行動目標として指差し呼称で確認する(4ラウンド)という4段階で進めます。1回あたり5〜10分程度で実施でき、朝礼の一部に組み込んでいる工場も少なくありません。
新人教育に組み込むと効果が高い
KYTを新人教育のカリキュラムに正式に組み込み、現場に出る前に危険予知と対策立案を実践的に学ばせることで、事故発生率が大きく低減した事例も報告されています。ベテラン従業員にとっては当たり前の危険でも、経験の浅い従業員には見えていないことが多いため、新人期間にこそ重点的に実施する価値があります。多能工化を進める工場では、新しい工程を担当するたびにKYTを実施する運用も効果的です。多能工化・スキルマップの考え方は多能工育成ガイドで解説しています。

一過性の研修で終わらせない「仕組み化」のポイント
KYTも安全教育も、実施した瞬間は効果を感じても、時間が経つと形骸化しやすいという共通の弱点があります。継続させるための工夫を紹介します。
ヒヤリハット報告と連動させる
KYTで話し合われた危険予知の内容と、実際に現場から上がってくるヒヤリハット報告を突き合わせることで、「まだ気づけていない危険」を発見しやすくなります。ヒヤリハット報告の件数を増やし、是正処置につなげる仕組みづくりの実例はこちらの記事で紹介していますので参考にしてください。
外国人材への安全教育は「多言語化」がカギ
特定技能・技能実習など外国人材の受け入れが進む食品工場では、日本語だけの安全教育では危険が正しく伝わらないリスクがあります。イラストや写真を多用した資料に加え、多言語対応の教育コンテンツを用意することで、言語の壁による事故リスクを下げられます。外国人材の受け入れ体制については食品工場の特定技能外国人材 受け入れ実践ガイドで詳しく解説しています。安全に関する基本行動を含む職場のルール定着は、5S活動の徹底とも密接に関わります。5S定着の実体験はこちらの記事をご覧ください。

まとめ:「大きな事故が起きていない」は対策済みとは限らない
食品工場は、はさまれ・巻き込まれ、転倒、切れ・こすれといった労働災害が他業種より起きやすい環境です。統計を正しく認識し、自社の設備・工程のどこにリスクが潜んでいるかを具体的に洗い出すことが、対策の第一歩になります。
KYTは特別な設備投資がなくても今日から始められる取り組みです。まずは朝礼での5分間から取り入れ、ヒヤリハット報告や多言語教育と組み合わせながら、事故が起きにくい現場を仕組みとして作り上げていきましょう。安全対策と合わせて設備面での改善(安全カバーの追加、危険箇所のレイアウト見直しなど)をご検討の場合は、ぜひ弊社にご相談ください。
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