HACCP計画書の書き方完全ガイド|7原則・12手順を現場目線で徹底解説【最新版】

HACCP計画書を作成している食品工場の品質管理担当者

「HACCP計画書を作らなければならないのはわかるが、何から始めればよいのかわからない」「法律で義務化されたから書類を作ったが、これで本当に正しいのか不安だ」。食品工場の担当者から、こうした声を毎月のように聞きます。

HACCPは2021年6月から全食品事業者に義務化されました。しかし「計画書の体裁を整えるだけで中身が伴っていない」工場が後を絶ちません。形だけのHACCP計画書は、いざ事故が起きたときに工場を守る盾にはなりません。

本記事では、食品製造コンサルタントとして20年以上・300社超の食品工場でHACCP導入を支援してきた経験をもとに、HACCP計画書の書き方を基礎から実践まで徹底解説します。

HACCP計画書とは何か?法的な位置づけと義務化の現状

HACCP計画書(HACCPプラン)とは、食品製造の各工程で発生しうる危害要因(微生物・化学物質・物理的危害)を分析し、それを管理するための具体的な手順を定めた文書です。HACCPシステムの根幹をなす文書であり、「何を、いつ、どのように管理するか」を明文化したものです。

HACCPが義務化された食品事業者の範囲

食品衛生法の改正により、2021年6月から原則としてすべての食品事業者がHACCPに沿った衛生管理を実施することが義務付けられました。事業者の規模によって対応が2種類に分かれています。

区分対象事業者対応内容
HACCPに基づく衛生管理大規模事業者(食品製造業、販売業等)7原則12手順に基づくHACCP計画書の作成・実施・検証
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理小規模事業者(従業員数が少ない食品事業者等)業界団体が作成した手引書に沿った衛生管理の実施

製造業に従事する多くの中規模以上の食品工場は「HACCPに基づく衛生管理」の対象となり、正式なHACCP計画書の作成が必要です。

HACCP計画書を作らないとどうなるのか

HACCP計画書が整備されていない場合、行政の監査(立入検査)で指摘を受けるリスクがあります。また、FSSC22000やISO22000などの食品安全規格の認証取得・維持が不可能になります。さらに、大手小売業やメーカーとの取引条件として「HACCP対応」を求められるケースも増えており、計画書の不備は取引機会の損失につながります。

HACCP計画書の7つの構成要素(7原則との対応)

HACCP計画書は、コーデックス委員会(Codex)が定めた「7原則」に対応した形で作成します。7原則とは何か、それぞれ計画書のどの部分に対応するかを整理します。

HACCP7原則と計画書の各セクションの対応関係を示す図解
原則内容計画書の該当セクション
第1原則危害要因分析(HA)ハザード分析ワークシート
第2原則重要管理点の決定(CCP)CCPリスト・管理計画表
第3原則管理基準の設定(CL)管理計画表(CL欄)
第4原則モニタリング方法の設定管理計画表(モニタリング欄)
第5原則是正措置の設定管理計画表(是正措置欄)
第6原則検証手順の設定検証計画書
第7原則記録と文書管理の手順設定記録様式一覧

HACCP計画書の作成手順:12手順をステップで解説

コーデックスのHACCPガイドラインでは、計画書作成前の準備を含む「12手順」が規定されています。この手順を守ることで、論理的で実効性のある計画書が完成します。

準備段階(手順1〜5):計画書作成の土台づくり

計画書に着手する前に、まず5つの準備作業を完了させる必要があります。これをスキップすると、後で計画書全体を書き直すことになります。

  1. 手順1:HACCPチームの編成
    製造・品質管理・衛生管理の担当者でチームを組む。外部専門家(コンサルタント)の活用も有効。
  2. 手順2:製品説明書の作成
    製品名、原材料、アレルゲン情報、製造方法、保存条件、消費期限、喫食者(対象者)を一覧化する。
  3. 手順3:意図する用途の確認
    製品がどのような状態で消費されるか(加熱して食べる、そのまま食べる等)を明確にする。
  4. 手順4:工程フロー図の作成
    原料受入から出荷までの全工程を図示する。実態と合っているか現場で確認(照合作業)。
  5. 手順5:工程フロー図の現場確認
    作成した工程フロー図を、実際の製造現場で全工程を追って正確かどうかを検証する。

特に手順4・5の工程フロー図は「HACCP計画書の設計図」です。ここが実態と乖離していると、危害要因の見落としに直結します。現場で確認せず机上で作成しただけのフロー図はHACCPの根本的な欠陥になります。

ハザード分析と計画書作成(手順6〜12)

準備段階が完了したら、いよいよ計画書の核心部分を作成します。

  1. 手順6(第1原則):危害要因分析
    各工程で発生・混入しうる危害要因(微生物的・化学的・物理的)を列挙し、リスクの大きさ(発生可能性×重篤性)を評価する。
  2. 手順7(第2原則):CCPの決定
    特定した危害要因のうち、その工程で管理しなければ製品の安全性が確保できないものをCCP(重要管理点)に指定する。「CCP判定ツリー」を使うと客観的に判断できる。
  3. 手順8(第3原則):管理基準(CL)の設定
    各CCPの許容範囲を数値で設定する。例:加熱工程の場合「中心温度75℃以上・1分間以上」。
  4. 手順9(第4原則):モニタリング方法の設定
    管理基準が守られているかを確認する方法(温度計による測定等)と頻度(毎ロット、1時間ごと等)を決める。
  5. 手順10(第5原則):是正措置の設定
    管理基準を逸脱した場合に取るべき措置(製品の廃棄・再加熱・原因調査等)を事前に決めておく。
  6. 手順11(第6原則):検証方法の設定
    HACCPシステム全体が正しく機能しているかを確認する手順(定期的なシステムレビュー、内部監査等)を設定する。
  7. 手順12(第7原則):記録・文書管理
    モニタリング記録、是正措置記録などの様式を作成し、保管ルール(保存期間・場所)を決める。

HACCP計画書テンプレートの使い方:主要3書類の記入例

厚生労働省が公開しているテンプレートや、業界団体が提供するフォーマットを利用できます。ここでは、実務で最も使われる3つの書類の記入ポイントを解説します。

① ハザード分析ワークシートの書き方

ハザード分析ワークシートは「どの工程で」「どんな危害が」「なぜ発生するか」「どう管理するか」を整理した一覧表です。記入する主な列は次のとおりです。

列名記入内容記入例(加熱工程)
工程名工程フロー図と一致した工程名加熱(スチームコンベクション)
危害要因の種類生物的(B)・化学的(C)・物理的(P)を明記B(微生物)
危害要因の具体的内容具体的な微生物名・化学物質名・異物名病原性微生物(サルモネラ等)の生残
重篤性高・中・低で評価
発生可能性高・中・低で評価中(原材料の汚染を前提)
CCPかどうかYES/NOと判断根拠YES(この工程で制御しないと以降は管理できない)

② HACCP管理計画表(CCPごとの管理方法)の記入例

管理計画表はCCPに指定された工程ごとに作成します。「加熱工程」を例に、各欄の記入方法を示します。

項目記入内容(加熱工程の例)
CCP番号CCP-1
工程名加熱(スチームコンベクション)
管理する危害要因病原性微生物の生残
管理基準(CL)製品中心温度 75℃以上・1分間以上
モニタリング方法中心温度計で各ロット終了時に測定
モニタリング担当者加熱担当オペレーター
是正措置CLを下回ったロットは隔離・再加熱または廃棄。原因究明と設備確認を実施。記録様式HACCPーR02に記録。
記録様式加熱温度記録表(HACCP-R01)

③ 一般衛生管理プログラム(PRP)の記録との区別

HACCP計画書とは別に、洗浄・消毒手順、害虫管理、設備メンテナンスなどの「一般衛生管理プログラム(PRP)」の記録も必要です。HACCPの審査では、PRPの記録が適切に管理されているかも確認されます。計画書とPRP記録は別フォルダで管理し、明確に区別しておきましょう。

HACCP計画書作成でよくある5つのミスと対策

20年以上の支援経験から、計画書作成で繰り返し見られる失敗パターンをお伝えします。以下に当てはまる項目がないか、ぜひ自社の計画書と照らし合わせてください。

ミス1:工程フロー図が実態と合っていない

計画書を机上で作成し、現場確認を省いたケースで多発します。「書類上は冷蔵保管と書いてあるが、実際は一時的に常温に出している」など、実態と乖離したフロー図ではハザード分析が成り立ちません。対策:フロー図完成後に必ず製造担当者と工程を歩いて確認する。

ミス2:管理基準(CL)が「適切な温度」など曖昧な表現

管理基準は「75℃以上・1分間以上」のように数値で明記することが必須です。「適切な温度で加熱」「十分に冷却」といった曖昧な表現では、何をもって合否とするか判断できません。対策:CLは科学的根拠(食品衛生法、業界ガイドライン等)に基づいた数値で設定する。

ミス3:モニタリング頻度が「毎日1回」など形式的すぎる

「毎日1回」「週1回」というモニタリング頻度は、実際の製造頻度やロット数と合っていないことが多いです。例えば1日10ロット製造しているのに「1日1回」では、残り9ロットの安全は確認されていません。対策:「各ロット終了時」「1時間ごと」など、製造サイクルに合った頻度を設定する。

ミス4:是正措置が「廃棄する」だけで原因究明がない

逸脱が起きたとき「そのロットを廃棄する」だけが是正措置として書かれているケースがあります。しかし本来の是正措置には「なぜ逸脱が起きたかの原因究明」と「再発防止策の実施」が含まれます。対策:是正措置には「製品の処置(廃棄・再加熱等)」「原因調査」「是正処置の記録」の3段階を必ず盛り込む。

ミス5:記録様式が難しすぎて現場で記録が続かない

専門家が作成したHACCP計画書の記録様式が現場担当者には複雑すぎて、白紙のまま記録が残っていないケースは珍しくありません。HACCPの記録は「証拠」です。現場が継続して書ける様式でなければ意味がありません。対策:記録様式は現場担当者と一緒に作成し、試験運用でフィードバックを得てから本番導入する。

HACCP計画書の維持管理:更新タイミングと内部監査の進め方

HACCP計画書は一度作って終わりではありません。製品・設備・工程に変更があれば随時更新し、少なくとも年1回は計画書全体をレビューすることが求められます。

計画書を更新すべき主なタイミング

  • 新製品・新原材料の導入時
  • 製造設備の変更・新設時
  • 工程の追加・削除・変更時
  • 食品衛生法や関連法令の改正時
  • 内部監査・外部監査で問題点が発覚したとき
  • 食品事故・ヒヤリハットが発生したとき

年次内部監査の実施方法

年1回の内部監査では、次の3点を確認します。①工程フロー図が現状の製造実態と一致しているか、②記録様式への記入が実際に行われているか(記録の完全性)、③是正措置が記録され、再発防止につながっているか。監査結果は文書化し、経営者への報告と次年度改善計画の策定につなげます。

まとめ:形だけでなく「使えるHACCP計画書」を作ろう

HACCP計画書は、作成することが目的ではなく、食品の安全を守るために「使われる」文書でなければなりません。本記事のポイントを振り返ります。

  • 12手順の準備段階(特に工程フロー図の現場確認)を丁寧に行う
  • 管理基準(CL)は数値で具体的に設定する
  • モニタリング頻度は実際の製造サイクルに合わせる
  • 記録様式は現場担当者が継続して記入できるものにする
  • 年1回の内部監査で計画書を継続的に改善する

HACCP計画書の作成・改善でお困りの場合は、弊社の専門コンサルタントがご支援いたします。現場視察から計画書の作成・従業員教育まで一貫してサポートしますので、まずはお気軽にご相談ください。


よくある質問(FAQ)

Q1. HACCP計画書とHACCP手順書(一般衛生管理プログラム)の違いは何ですか?

HACCP計画書は危害要因分析と重要管理点(CCP)の管理方法を定めた文書です。一方、一般衛生管理プログラム(PRP)は洗浄・消毒・害虫管理・従業員衛生教育などの基本的な衛生管理手順を記載したものです。両者はHACCPシステムを構成する別々の文書であり、どちらも整備が必要です。

Q2. HACCP計画書の承認は誰が行うべきですか?

HACCP計画書の承認は、工場長や品質管理責任者など、適切な権限を持つ責任者が行うべきです。HACCPチームが作成し、経営者または品質責任者が内容を確認・承認するプロセスを設けることで、組織全体のコミットメントが示されます。

Q3. HACCP計画書はどのくらいの頻度で更新すればよいですか?

製品・設備・工程に変更があった際は都度更新が必要です。変更がない場合でも、少なくとも年1回は計画書全体をレビューし、実態との乖離がないか確認することが推奨されています。FSSC22000などの食品安全規格では定期的なシステムレビューが要求されています。

Q4. 中小食品工場でもHACCP計画書の作成は義務ですか?

食品衛生法の改正により、原則すべての食品事業者に衛生管理が義務付けられています。ただし小規模事業者(従業員が少ない等)は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」として、業界団体が作成した手引書に沿った管理でよいとされています。自社の規模と業種に応じた対応を確認してください。

Q5. HACCP計画書の作成をコンサルタントに依頼した場合の費用はいくらですか?

HACCP計画書作成支援の費用は、工場の規模・製品種類・現状の衛生管理レベルによって大きく異なります。一般的に中小食品工場(製品種類5〜10品目程度)向けのHACCP構築支援は、50〜200万円程度が相場です。まずは現状診断(無料または低コストで実施する会社が多い)から始めることをお勧めします。


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この記事を書いた専門家
今井 正久|FMネットワーク・エンタープライズ株式会社 代表取締役
食品機械エンジニアとして25年以上のキャリアを持つ食品工場専門コンサルタント。国内外300社以上の食品工場でHACCP構築・FSSC22000認証取得・生産ライン最適化を支援。厚生労働省のHACCP義務化対応支援の実務経験も豊富。

今井 正久 プロフィール写真
この記事を書いた専門家
今井 正久
FMネットワーク・エンタープライズ株式会社 代表取締役CEO
食品工場設備衛生管理・HACCPCIP洗浄異物混入対策生産ライン設計省エネ設備DX化推進
食品機械エンジニアとして20年以上のキャリアを持つ食品工場専門コンサルタント。国内外300社以上の食品工場で設備設計・生産ライン構築・衛生管理体制の整備を支援してきた実績を持つ。HACCP義務化対応・FSSC22000認証取得・異物混入対策・CIP洗浄システム導入・DX化推進など、食品安全と生産性向上の両立を得意とする。